近年、医学の進歩により、人工呼吸器や胃ろう、喀痰吸引などの医療的ケアを必要としながら、在宅での生活や地域生活を営む「医療的ケア児者」が増えてきました。
その一方で、支援の入口が分かりにくい・自治体による支援の格差が残るといった課題も浮上していました。そこで、令和3年(2021年)6月18日、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下、本法)が公布され、同年9月18日から施行されています。
本法により、国や自治体に初めて支援の「責務」が明文化され、医療的ケア児者が地域で安心して生活できる環境づくりが進められています。
医療的ケア児等支援法とは
医療的ケア児等支援法は、日常生活において人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引、経管栄養などの医療的ケアを必要とする18歳未満の児童および18歳以上で高等学校等に在籍している人を対象としています。
医療的ケア児等支援法が画期的とされる理由は、国や地方自治体、保育所・学校の設置者に対して医療的ケア児者への支援を「責務」として初めて法律で明文化した点です。2016年の改正障害者総合支援法では「努力義務」とされていましたが、本法ではさらに踏み込んで強い義務を課すことで、実効性のある支援体制の構築を目指しています。
法律の目的と基本理念
本法の目的は、次のように定められています。
「この法律は、医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加するとともにその実態が多様化し、医療的ケア児及びその家族が個々の医療的ケア児の心身の状況等に応じた適切な支援を受けられるようにすることが重要な課題となっていることに鑑み、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、保育及び教育の拡充に係る施策その他必要な施策並びに医療的ケア児支援センターの指定等について定めることにより、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資し、もって安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的としたこと。」
また、第三条に基本理念が明記されており、以下のような考え方が示されています。
・医療的ケア児とその家族の支援は、日常生活および社会生活を社会全体で支えることを旨として行わなければならない。
・支援は、医療的ケア児が医療的ケア児でない児童とともに教育を受けられるよう最大限配慮しつつ、個々の状況に応じて、医療・保健・福祉・教育・労働等の関係機関の緊密な連携の下で切れ目なく実施されなければならない。
・医療的ケア児が18歳に達し、又は高等学校等を卒業した後も、保健医療サービスおよび福祉サービスを適切に受けながら社会生活を営むことができるよう配慮されなければならない。
・支援に関しては、医療的ケア児とその保護者の意思を最大限尊重しなければならない。
・支援施策を講ずるにあたっては、居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられるようにすることを旨としなければならない。
社会全体での支援
医療的ケア児者の日常生活および社会生活を社会全体で支えることが、この法律の根幹となる理念です。医療的ケア児者とその家族だけに負担を負わせるのではなく、社会全体で支援する体制を構築することが求められています。
切れ目のない支援体制
個々の医療的ケア児者の状況に応じて、医療・保健・福祉・教育・労働などの各分野が連携し、切れ目なく支援を行うことが定められています。また、18歳を迎えて医療的ケア児でなくなった後にも配慮した支援が必要とされています。
その他の重要な理念
医療的ケア児者と保護者の意思を最大限に尊重した施策の実施、居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられる施策の推進が基本理念として掲げられています。
参考:医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律|e-GOV
各主体の責務
医療的ケア児等支援法では、国・地方自治体・保育所や学校の設置者など、それぞれの主体に具体的な責務が定められています。
国・地方自治体の責務
国は、医療的ケア児者支援に関する基本的な施策を策定し、総合的に実施する責務を負っています。また、都道府県および市区町村は、国との連携を図りながら、地域の実情に応じた施策を策定し、実施する責務があります。具体的には、以下の施策が挙げられます。
・医療的ケア児が在籍する保育所、学校等に対する支援
・医療的ケア児者及び家族の日常生活における支援
・相談体制の整備
・情報の共有の促進
・広報啓発
・支援を行う人材の確保
・研究開発等の推進
保育所・認定こども園等の設置者の責務
保育所、認定こども園、家庭的保育事業等を営む施設の設置者は、医療的ケア児が適切な支援を受けられるよう、看護師等や喀痰吸引等が可能な保育士の配置を行う責務があります。
厚生労働省は2022年に「保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドライン」を作成し、具体的な受け入れ体制の整備を支援しています。
学校設置者の責務
学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校)の設置者は、医療的ケア児に対して適切な教育を受けられるよう、看護師等の配置を行う責務があります。
参考:医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律|e-GOV
具体的な支援内容
医療的ケア児等支援法では、医療的ケア児者とその家族が地域で安心して生活できるよう、複数の具体的な支援策が定められています。
保育体制・教育体制の拡充
保育所、認定こども園、幼稚園、学校などの施設設置者は、医療的ケア児が家族の付き添いなしで希望する施設に通えるよう、看護師等または喀痰吸引等を行うことができる保育士等の配置が求められています。文部科学省の調査によると、2021年時点で特別支援学校に8,485人、通常の幼稚園・小・中・高等学校に1,783人の医療的ケア児が在籍しており、受け入れ体制の整備が進められています。
保育所における医療的ケア児の受け入れも拡大しており、2020年時点で医療的ケア児の受け入れに対応している保育所等は526ヶ所、受け入れ状況は645人でした。2015年から保育所の数・受け入れ状況ともに2倍程度の増加が確認されています。
相談体制の整備
地方自治体は、医療的ケア児等支援法第11条により、医療的ケア児者とその家族からの相談に応じる体制を整備し、情報の共有促進や関係機関等の連携体制を構築する責務があります。これにより、医療的ケア児者とその家族が困りごとに直面した際に、適切な支援につながりやすい環境が整えられているのです。
医療的ケア児支援センターの設置
各都道府県は医療的ケア児支援センターの設置が可能で、医療的ケア児者とその家族がワンストップで相談対応を受けられる拠点の整備が進められています。支援センターでは、当事者・家族・支援者からの相談を受け、医療的ケア児者支援に関する情報提供や研修を実施しています。
医療的ケア児等コーディネーターの配置と役割
医療的ケア児等コーディネーターは、医療・福祉・教育などの各機関と連携し、医療的ケア児者とその家族の支援を調整する重要な役割を担っています。コーディネーターの配置により、複数の支援機関をつなぐ橋渡し役として、切れ目のない支援体制の実現が図られています。
参考:
令和3年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果(概要)|文部科学省
保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて|厚生労働省
医療的ケア児支援センター等の状況について|厚生労働省
法施行後の進捗状況
医療的ケア児等支援センターの設置状況
医療的ケア児等支援法の施行を契機に、医療的ケア児等支援センターの整備が大きく進展しました。2022年8月末時点では34道府県でしたが、その後整備が進み、2024年2月までに全47都道府県で支援センターが設置されています。

※2024年11月時点
医療的ケア児支援センターの9割以上が、医療的ケア児等支援法施行以降の令和4年度以降に設置されており、都道府県の「指定」を受けて取り組んでいるセンターが7割を占めています。
参考:
医療的ケア児支援センター等の状況について|厚生労働省
医療的ケア児支援センターの機能強化等に関する調査研究|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
現状の課題
医療的ケア児等支援法の施行により支援体制は大きく前進しましたが、依然としていくつかの課題が残されています。
医療的ケア児者を受け入れるためには、看護師や介護福祉士、特別支援教育の教員など、専門的な知識と技術を持った人材が不可欠ですが、現状ではこれらの専門人材が不足しており、必要な支援が十分に提供されていない状況です。特に地方では専門医療機関や支援施設が少なく、人材不足が深刻化しています。
また、支援制度を整える責務はすべての自治体に等しく課されていますが、実際の支援体制の充実度については自治体ごとに格差があります。そのため、居住する地域にかかわらず充実した支援が行き届くよう、さらなる法整備が求められているのです。
さらに、医療的ケア児等支援法では高校等に在籍する18歳以上も「医療的ケア児」に含まれますが、成人期に利用できる社会資源は依然として不足しており、高校卒業後などの移行期にいわゆる「18歳の壁」と呼ばれる支援の切れ目が生じやすいことも大きな課題です。
まとめ
医療的ケア児等支援法は、医療的ケア児者とその家族を社会全体で支えるための重要な法的基盤を確立しました。法律の施行により、全都道府県への医療的ケア児支援センターの設置、保育所や学校での受け入れ体制の拡充、医療的ケア児等コーディネーターの配置など、具体的な支援策が着実に進展しています。
一方で、専門人材の不足、地域による支援格差、18歳以上への支援などの課題も残されています。医療的ケア児者が居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受け、他の子どもたちと共に健やかに成長できる社会の実現に向けて、今後も継続的な取り組みが求められているのです。
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